“産地で学ぶ”ワイン理論シリーズ|Vol.1 フランス概論

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歴史

🏛 古代〜中世

  • フランスでのワイン造りの歴史はとても古く、ローマ時代のガリアにおいてすでに大規模なブドウ栽培が行われていました。
  • それ以前には、ギリシャ人が現在のマルセイユ(ギリシャ植民地)にワインを持ち込み、イタリアからも伝わったとされています。
  • 当初ブドウはフランス南部(ローヌ渓谷、ボルドー周辺)に限定されており、特に海に面した地域は貿易の拠点として有利でした。

👑 カール大帝〜修道院時代

  • ブドウ畑の大規模な拡大は、800年のカール大帝(シャルルマーニュ)即位以降に進みました。
  • 1000年以降の修道院時代に入ると、宗教機関がワイン造りを牽引するようになります。

⚓ 中世〜近世:輸出の広がり

  • 中世にはイングランド、スコットランド、フランドル、オランダとの間に重要な輸出市場が確立。
  • ワイン流通は河川や海の交通に依存しており、陸路が困難だったため、パリ近郊やロワール河沿いの産地が都に供給する役割を担いました。
  • パリの近くにもかつては多くのブドウ畑がありました(現在は廃園)。

🛳 17〜19世紀:近代への布石

  • 17世紀〜19世紀には特にボルドーのワイン輸出が大きく伸び、1855年の格付け制度へとつながります。
  • とくに17世紀、オランダ人技術者によるメドック湿地の排水工事により、水はけの良い砂利質土壌が現れ、優良なブドウ栽培地となりました。
  • ボルドー港はヨーロッパ北部・パリへの輸出拠点として重要な地位を確立します。

🦠 19世紀後半:病害との闘い

  • しかしその後、うどんこ病・べと病・晩腐病・フィロキセラといった病害の連続により、産地は大打撃を受けます。
  • 業界全体が回復したのは20世紀初頭、対応策が確立・普及してからのことでした。

🌍 植民地・EU時代以降

  • フィロキセラ危機の際、多くのフランス人ワイン生産者がフランス領アルジェリアに移住し、そこで造ったワインをフランスに輸出。この貿易は1970年代初頭まで続きました
  • その後フランスは、他のEU諸国と同様、EUのブドウ抜根(vine-pull)政策の影響でブドウ畑の面積を大幅に削減。
  • 1970年〜2010年代初頭にかけて、ブドウ栽培面積は約3分の1減少しました(食用・ブランデー用含む)。

気候とブドウ栽培

  • フランスは広大なため、地域ごとに気候が大きく異なります
    • 例:冷涼な大西洋型(ミュスカデ)/大陸性(ブルゴーニュ)/地中海性(プロヴァンス)
  • 北緯42〜49度の間にブドウ産地が広がっており、各地域については地域ごとに詳しくご紹介します。

🍇 栽培スタイル

  • 南仏の一部を除き、ほぼすべてのブドウはトレリスに仕立て+高密度植栽で管理。
  • ギュイヨ仕立て(VSP:垣根式)が広く使われています。
  • 有機栽培は急増中で、2011〜2019年に71%増加し、2019年には国全体の14%に

🍇 主なブドウ品種

  • 品種は地域ごとに強く結びついています。
  • 上位品種にメルロー(ボルドー/IGPラングドック)やユニ・ブラン(コニャック/アルマニャック用)など。

醸造スタイル

  • フランス全体での共通点は少なく、基本的に各地域でさまざま
  • 補糖(シャプタリゼーション)は元々フランス発祥で、今も冷涼地域で使用。ただし温暖化とキャノピーマネジメントの進歩で減少傾向。
  • 樽熟成は伝統的な手法で、フランスには世界的評価を受ける製樽業界があります。
  • ボルドーやモンペリエにはぶどう栽培・醸造科学の研究機関も整備されています。

ワイン法と制度

  • 1935年設立のINAO(現:国立原産地・品質機構)がフランスのワイン制度を統括。
  • AOC制度(Appellation d’Origine Contrôlée)は地域性=テロワールを守るための詳細なルールで成り立っています。
    • 許可品種、植栽密度、仕立て方、収量上限、最低アルコール度数、熟成期間などを規定。
  • IGPワイン(地理的表示付き)はAOCより規制が緩く、高収量・広域生産が可能。
    • 地域別IGP:例)IGPペイ・ドック、IGPペイ・ド・エロー、IGPコリーヌ・ロダニエンヌ
  • 2009年以降、ブドウ品種名のラベル表示が可能に(例:Bourgogne AOC Chardonnay)。
  • Vin de France(旧:ヴァン・ド・ターブル)も品種名・ヴィンテージ表示ができるようになりました。

ワインビジネスの特徴

  • フランスのブドウ畑の平均所有面積は約10.5haで、イタリア・スペインより大規模
  • 小規模生産者は今も協同組合が大きな支えで、
    • AOPワインの約50%、IGPワインの約70%を協同組合が醸造。
  • 国内のワイン消費量は長期的に減少中で、現在は100年前の半分以下。
  • 販売の約75%は地元の中小業者・プライベートブランド経由で、産業は非常に分散。
  • 2017年の最大企業はカステル・フレール社(シェア12%)、次いでカルフールITMエンタープライズ
  • 輸出量はスペインやイタリアに劣るが、輸出金額では世界一
    • イタリアより57%、スペインの約4倍の金額を輸出。
  • 一方で、低価格帯のワインをスペインから輸入しており、フランス国内の生産者と輸入業者の間で摩擦もある。

まとめ

フランスワインは「多様性」と「制度」が同居する世界最大級のワイン国家。
歴史・テロワール・法律・産業の仕組みを知ることで、各地域の理解がぐっと深まります。

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