“産地で学ぶ”ワイン理論シリーズ|Vol.2 ボルドーの概論・気候・土壌

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🍷ボルドー概論①:地理・歴史・格付け制度まで

📍 地理と産地構造

  • ボルドーはフランス南西部、大西洋に近い位置にあります。
  • ガロンヌ川とドルドーニュ川が流れ、合流してジロンド河口を形成。
  • 河川の位置関係により、以下のように分類されます:
    • 左岸(Left Bank):ガロンヌ川・ジロンド河口の西側(例:メドック、グラーヴ)
    • 右岸(Right Bank):ドルドーニュ川・ジロンド河口の東側(例:ポムロール、サン・テミリオン)
    • アントル・ドゥ・メール(Entre-Deux-Mers):両河川に挟まれた中間地帯

🍇 ブドウの構成とワインスタイル

  • ブドウ栽培面積の約90%が黒ブドウで、赤ワインが圧倒的多数。
  • AOCワインの生産比率は以下の通り:
    • 赤ワイン:85%
    • 辛口白ワイン:9%
    • 甘口白ワイン:1%未満
    • ロゼワイン:5%

📜 歴史的な発展:湿地から世界ブランドへ

🔧 メドックの開発(17〜18世紀)

  • メドック半島(都市の北側)はもともと湿地帯でしたが、17世紀にオランダ系住民が排水工事を行い、ブドウ栽培が可能に。
  • 18世紀中頃にはラフィットやマルゴーといったシャトーのワインがヨーロッパやアメリカで高く評価されていました。

🌍 ワイン流通と国際的評価

  • ボルドーはもともと他地域(例:ベルジュラック)のワインの輸出拠点でもあり、**国際的な商人階層(英国・アイルランド・ドイツ・オランダなど出身)**が発展。
  • 彼らが**プロデューサーではなく商人が流通を担う流通システム(ネゴシアン)**を築き、それは今でも続いています。

🏅 1855年の格付け制度とその影響

  • **1855年のパリ万博(Exposition Universelle)**に際して、ボルドー商工会議所がブローカーに依頼し、価格を基準とした格付け表を作成。
  • 対象:
    • メドックとグラーヴのオー・ブリオン:5段階
    • ソーテルヌ地区:3段階
  • この格付けは以前にも非公式に行われていましたが、1855年のものが初の「公式」格付けとされ、現在も基本的にそのまま使用され、価格にも影響を与えています。

🌿 栽培面積とワインの層構造

  • ボルドー全体のブドウ栽培面積は約108,000haという巨大規模。
  • しかし、実際のAOCワインの72%は「ボルドー」「ボルドー・シュペリウール」「メドック」「コート」などの一般的な名称に限られており、価格帯も安〜中価格が中心。
  • 対照的に、
    • ポムロールAOCは800haほど
    • 格付けシャトーは全体の約5%
      と、高評価エリアはごく一部。
ピノコ
ピノコ

世界的な銘醸地として知られるボルドーですが、その大部分は日常的に楽しめるテーブルワインです。
産地は川によって左岸・右岸・中間地に分かれ、1855年に定められた格付け制度が現在でも価格に大きな影響を与えています。
歴史・地形・制度が複雑に絡み合う、学べば学ぶほど面白いワイン産地です。

🌿ボルドー概論②:気候と土壌から見る“ワインの個性”

☀️ 気候:海と年ごとの天候が左右する産地

  • ボルドーは穏やかな海洋性気候に属し、メキシコ湾流の影響で温暖
  • 優れた年には、生育期を通じた適度な気温と降水量、初秋の乾燥した気候がそろい、タンニン・酸・糖のバランスが取れたワインが生まれる。
  • 左岸(メドック〜グラーヴ)はランドの松林(Les Landes)が大西洋の嵐からの防壁となるが、林の近くは気温が低く「やや厳しい条件」となることも。
    • 例:レオニャンのドメーヌ・ド・シュヴァリエやメドックのリストラック周辺
  • メドック北部は森林が少なく、より直接的に海洋の影響を受けて涼しい

🌧 雨のリスクとヴィンテージ差

  • 年間平均降水量は約950mmだが、年や季節によって大きく変動
  • 雨が及ぼす影響:
    • 開花期の雨:結実不良
    • 生育期の雨:病害リスク増
    • ヴェレゾン(色づき)期の雨:未熟なブドウやカビの発生
    • 収穫期の雨:香味の薄まり

🌡 温暖化と極端気象の影響

  • ヨーロッパ全体と同様に、ボルドーでも猛暑と干ばつ傾向が増加。
  • 高温年(例:2003年)では、酸が少なくバランスに欠けたワインになることも。
  • フェノール成熟を待つ傾向から、アルコール度数が高くなりがち

🌬 霜・雹の被害

  • 右岸(リブルヌ地区=サン・テミリオンやポムロールなど)は海洋の影響がやや少ないが、それでも一定の影響あり。
  • 過去には大規模な霜害も(例:1956年・1991年・2017年)
    • 特にジロンド河口に近いブドウ畑は霜から守られる一方、少し西へ行くだけで壊滅的な被害に。
  • 雹の被害もこの10年で広域化・深刻化している。

📉 収量の年ごとの差

  • 例:2017年の霜害では、過去10年平均より33%も生産量が減少
  • このような年ごとの差は、経営的リスクが大きい産地特性でもある。

🪨 土壌:ワインの質を決める“地中のチカラ”

🪨 左岸:砂利(グラーヴ)と排水性

  • メドック〜グラーヴの左岸は、ピレネー山脈やマシフ・サントラルからの堆積によって形成された砂利質の土壌
  • 砂利は、排水性が高く、雨の後でも地中がすぐ乾くため、ブドウの成熟が妨げられにくい。
  • この砂利が堆積した小高い丘は「クループ(croupe)」と呼ばれ、左岸のトップシャトーはすべてこの上に位置
  • 極端に暑く乾燥した年(例:2003年・2005年)では、排水性の良さが逆に乾燥ストレスを引き起こすことも
  • 砂利はまた、保温性が高く、夜間に蓄熱を放出することで成熟をゆっくり促進します。

🌾 粘土の存在とそのワイン

  • 左岸でも粘土土壌は存在し、サン・テステフなどでは骨格ある力強いワインが生まれますが、評価はやや控えめ。

🧱 右岸:粘土優勢とメルローの親和性

  • 右岸では粘土土壌が主体であり、一部にリブルヌ地区(サン・テミリオンやポムロール)などで砂利も見られます
  • この粘土質の土壌は、メルローと非常に相性が良く、多くの年で完熟が安定して得られるのが特徴。
  • メルローはカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランよりも糖分を多く蓄えるため、アルコール度数が上がりやすく、寒冷期に重宝されてきた背景があります。
  • 右岸で最高品質のワインは、石灰岩の高台やポムロール周辺の砂利区画のブドウから生まれます。
ピノコ
ピノコ

土の違いがブドウ品種の選択を決め、ワインのスタイルを生む。
左岸の砂利とカベルネ、右岸の粘土とメルロー。この構造を理解することで、ボルドーの地図が味とつながるようになります。

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